障害者ノアール

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(これは短編小説です)

第1節 ミホの相談
シゲはメル友募集の掲示板では、中嶋一雄というハンドルネームを使っている。
メル友のミホと会う約束を取り付けた。彼女は中学の教師をしている夫の浮気に悩まされていた。嫌なことを忘れるためにシゲに会いたいとメールしてきた。待ち合わせは博多から少し離れた駅前の喫茶店である。コーヒーもそこそこに免許証不携帯でミホを車に乗せた。来るときに下見して来た町外れのラブホに直行した。
昼間だというのにラブホは満室だった。が奥の部屋から1台の軽が出てきた。どんな奴か乗っているのか見ようとしたが、スモークが貼ってありよく見えない。駐車スペースに車を止め入室した。部屋に入るとすぐに電話が鳴る。部屋の使い方の簡単な説明を聞いた。そんなことはどうでもよく。やがて、二人のめくるめく時間が始まって、互いの肉体をむさぼりあった…。
ある日、ボート仲間のタクシー運転手の上原が何気にこんな事を言った。
「免許取り消しになったら免許証の紛失届ば出さんね。そして再発行ば申請するとたい。笹栗の運転免許試験場の聴聞会に呼び出されるけん。失くしましたと言えばよか。それで新しか免許証の手に入る」
1ケ月後にミホから相談があるとメールが入った。約束の日時に出向き、彼女を車に乗せるとラブホに直行した。途中、酒の自販機の前を通りかかると、ミホが酒を買おうと言い出した。車を止めると、ミホは降りていき、ワンカップと缶ビールを抱えて来た。
今度のラブホは和室である。入室するなり激しくクチビルを求め合った。やがて、欲望を満たして、少し落ち着いたところで酒盛りを始めた。ツマミは備え付けの冷蔵庫からサキイカとピナーツを出した。ミホの酔いが回って来ると饒舌になった。

第2節 義父に犯される
「ねえ、一雄さん、うちの旦那ばヤッてくれんね。うまくいったなら保険金の半分はアンタにやるけん。うちの奴は、近頃、不倫相手の女教師に入れ揚げて帰ってこんごとなったと。悔しかけん、うちがアテつけに死ぬか。旦那ば、しまやかしてやりたか。5千万の生命保険ばかけとるけん。うまくいけば2500万円はアンタのもんたい。うちが手はずば整えるけん。アンタが息の根ば止めてくれるとよか」(ミホとの交信にシゲは中嶋一雄のハンドルネームを使用している)
「なんね、ミホちゃん、今日はどうしたと。そげな、旦那ば、終やまやかくれやら、尋常じゃなかばい、何かあったとね」
「うん、実はね、この前、義父の部屋に呼ばれて離れにいったと。そしたら義母の留守をよいことに、うちば畳に押さえ付けたとよ。大きな声ば出したしたけんよかったとやけどね。このことば旦那に言うと、なんもされとらんなら、よかやないか。触られたぐらいなら、減るもんじゃなかけん、よかろうもん、て、こげん言うとよ。それに、不倫相手の向うの旦那さんにもバレてから、もう我が家は毎日が地獄の日々よ。家んとばしまやすか、うちが死にたかあ」
なるほど。ミホの話を聞けば彼女が夫を殺したいほど憎む理由はわかった。そうかといって、実行する勇気がわかなかった。しかし、状況は逼迫している。2度目にミホを抱いている最中にあることを思いついた。

俺は体がこげな風じゃけん役に立たん。ヨッしゃんに話ば持っていこう。その夜。ヨッしゃんを電話で呼び出した。古い知り合いで、半端者である。
「ヤバイばってん金になる話がある。どげんか。やる気はあるか」
「シゲっちゃん、人殺し以外なら何でもするばい。金融の取り立てに追われて往生しよるけん。金になるなら何でもする」
事の次第を話して聞かせた。
「うーん、それはちょっと…」
「ほんなら止めとくか。俺にはできんけん、断るかな」
「シゲちゃん、それはちょっと待ってくれ考えがあるけん。ペーさん(北川)ば一枚噛ませようか。ほら昔のマージャン仲間」

第3節 不法滞在者
ペーさんというのはアジア系外国人だ。若いころ何度か麻雀をしたのでシゲも面識はある。故郷を出る時にブローカーにかなりの借金を負わされていた。中州のキャバクラの女に入れあげていた。普段は佐賀の山の中のヤードが根城だ。周囲をガンガンで囲い、中で自動車の解体が行われている。
部品を発展途上国に売るのである。海外で日本車の中古車は人気があるので中古部品の輸出は金になる。不法滞在の外国人が多く就労している。車の解体業というのは表向きで、本当は何をやっているかよくわからない。海外の蛇頭ともつながりがあるとも噂される。実態がよくわからず警察も手を焼いているようだ。近所の防犯係のおっちゃんもため息をつく。

2500万の内1千万円づつを俺とペーさんでもらう。シゲちゃんが500万円握る。これでどげんんね」
「俺は金はいらん。ペーさんに1500やって仕事が終われば中国かラオス辺りに逃がすとよか。バレてもペーさんを主犯にするたい。もし、お前に類が及んでも知らぬ存ぜぬで突っぱねろ。ミホば紹介するけん、後は3人で決めてくれ。ただし、女に手は出すな。俺の名前は絶対に出したらイカン。ケーサツでしばかれて歌うとは極道者の恥ぞ」

久留米のタクシの運転手が、覚せい剤所持で捕まったことがある。誰から買ったかを追及され白状した。おかげで売人のヤクザはお縄になった。出所後タクシーの運転手を生け捕りにして背振山の山中に連れて行き、二度と歌えんようにしてやると言って、運転手の口を木綿針で縫ってしまった事件がある。
「ほ、ほんなこつか。わかった。そりゃあよか考えばい。シゲちゃんもなかなか悪やのう」

「こくな。そげな肝の小さいことでどげんするか。お前は国民保険もかけとらんけん。歳とっても年金はもらえんぞ。今度の件で金を握ったら借金払って堅気になれ。美代子さんと二人で、ハウスクリーニングの仕事でも始めるとよか」美代子というのは若いころ縫製工場の専務を脅かして失敗し、ヨっしゃんが竜神組に入るきっかけを作った女だ。若いころの腐れ縁で別れたりくっついたりを繰り返している。
それからのシゲは東京の人妻とネットラブに溺れた。幸子と言ってエリート商社マンの妻である。旦那はインドネシアに単身赴任している。時々ジャカルタから戻ってくる。シゲと幸子は羽田で落ち合い。鶯谷のラブホテルで情事を楽しんだ。山手線の鶯谷駅の北口から出て、線路沿いにあるクリスタルというラブホテルだ。幸子を抱いた後、何気にテレビをつけると、
「福岡県津屋崎の恋の浦の海辺で手足が切断された中年男性の変死体が砂の中から発見され、中学校の教師だと身元が判明しました」
と報じられたのでシゲはミホの事を思い出した。あれからどれほどの時間が過ぎただろうか。もうすっかり忘れていたのだ。
あの時は半分冗談のつもりでヨっしゃんに話したのだ。まさか本当に彼らは実行したのだろうか。あれっきり唐芋顔は姿を見せない。ミホからも何の連絡もない。男どもはどこか潜り込んでいるのだろうと思い込んでいた。シゲは無関係とも言えないので、いつ警察が事情を聞きに来るかとビクビクして暮らすことになる。

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まこっちゃん

まこっちゃん

元自動車会社工員、配管工、自動車洗車場、呉服担ぎ屋、土木作業員

昭和61年、琉球大学キャンパス内で架橋工事中に突然脳内出血に倒れる。
以降左半身不随の後遺症が残り1種2級の身体障碍者となる。

昭和64年(平成元年)リハビリセンターで入所中に知り合って交際していた女性職員と入籍。
福岡県粕屋郡古賀町(現古賀市)へ転居。彼女が働き、家事全般は夫がする暮らしを始める。生活費は折半。いわゆる「主夫」となって今に至る。

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