片翼の恋人3

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「正明と出逢ってもうすぐ1年半。彼への想いは募る一方である。初めの頃のような不安はあまり(全然ではない)ないけど、代わりに切なさの量が増えたかなと思う。ほんとにほんとに、いつも一緒にいれたらいいのにね。

もっと彼と一緒にいたい。ずっと一緒にいたい。いつも一緒にいたい。これから先、彼とふたりで歩んでいきたい。思えば思うほど、どうにもできない現状が苦しくて。それが、10日くらい前かな。自分の中でひとつの答えにたどり着いたのは。ほんとうに突然、ふっ、とそこにたどり着いたって感じで。
私、今の生活、すごく幸せだよね。子供は元気に育っていて可愛いい。毎日楽しいし。夫は相変わらずよい人で、私のよき理解者で、色んな相談にものってもらって一緒にがんばっている。そのうえ大好きな彼がいて遠く離れて絶対逢えないと思っていたけど。やっと今日逢えた。いつもは電話とメールで心から幸せな時を過ごせる。そのうえ何を欲しがっているの?今のままで十分幸せでしょ・・・」

ツインの狭いベッドで体の不自由な二人が寝ていると狭くて息苦しい途中で何度も目覚めるが寝返りも打てない。

「ねえ、大丈夫、落ちないでね」

お互いにベッドから落ちないように気遣いあった。何度も落ちそうになった。それでも離れることをしないで、狭い場所でくっついたままでいたかった。もう明日は別れが待っているのだ。次はいつまた逢えるのかもわからない。一分一秒でも惜しい。実に窮屈だが互いの体温を直に感じられて幸せいっぱいである。そしてカーテンの隙間からかすかな光が差し込んできた。時計を見ると6時だった。

「モーニン。正明さん、眠れた?」

「否、あんまり寝てない。でも、佐美子と一緒にいられたから嬉しい」

正明はベッドから下りて飲みかけのお茶を取りにいって、口うつしで佐美子に飲ませた。

互いの秘めたる思いを放出したら急に空腹を覚えた。

「あ、そうだ俺、下のコンビニへ行ってパンと牛乳買ってくる。レストランは高いからね。10時になったら映画見に行こうよ」

時間があったら二人で一緒に映画を見ようと約束していたのである。

「うん、そうだね。私、パンはなんでもいいけど、コーヒーが飲みたいなあ」

正明は大急ぎで装具を足に巻きつけて洗面とトイレを済ませた。エレベーターで下りてコンビニを探したけど、なかなか見つからない。フロントで尋ねてようやくたどり着いた。普通のサンドイッチを探したが、まだ配達されてないという。しかたがないのであり合わせのメロンパン、ミルクパンと牛乳、コーヒーを買って部屋に戻った。

簡単な朝食が済むと映画館のある棟へ移動した。映画の料金は通常¥1800だが、障害者割引で¥1000になった。映画のタイトルは「君に読む物語」。アメリカもので、老人ホームにいるボケが始まった妻に、夫が自分たちの若き日の出会いを手紙にして読み聞かせるという中高年向けのラブストーリーである。

佐美子の希望で出入り口の一番後ろの席に座って二人で手をつないで映画を鑑賞した。映画が終わると館内のレストランでランチをして佐美子を東京駅まで送っていった。丸の内南口に障害者専用の待合室がある。ここで車椅子介助を専用の電話で頼むとホームまで連れて行ってもらえる。3時過ぎに佐美子を見送ってから正明は山手線で浜松町へ出て、モノレールで羽田へ行った。

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テイクオフ

「身体を重ねるというのはやはり自然の摂理なんだなとつくづく思う。肌の温もり、柔らかな感触、女性ならではの全てが正明を癒してくれる。エッチがいやらしいとかそんなことは感じられない。これがお互いを求めるということなのかな、といい歳をして初めて実感している。ただ、これは本来妻との間で感じなければいけないことなのに、そうでないのが運命なのだろうか」

そういう想いの正明を載せてスカイラーク013便は、定刻通り、17時25分に羽田から福岡に向けて飛び立った。(了)

 

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まこっちゃん

まこっちゃん

元自動車会社工員、配管工、自動車洗車場、呉服担ぎ屋、土木作業員

昭和61年、琉球大学キャンパス内で架橋工事中に突然脳内出血に倒れる。
以降左半身不随の後遺症が残り1種2級の身体障碍者となる。

昭和64年(平成元年)リハビリセンターで入所中に知り合って交際していた女性職員と入籍。
福岡県粕屋郡古賀町(現古賀市)へ転居。彼女が働き、家事全般は夫がする暮らしを始める。生活費は折半。いわゆる「主夫」となって今に至る。

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