ダイヤルまわして手を止めた

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トゥルルル♪ トゥルルル~♪

博多湾に面したマンションの一室で寂しげな電話の呼び出し音が鳴った。ちょうどパソコンの前にいた俊樹は、そばにある受話器を取ろうとしたが止めた。今出たらまた元に戻ってしまうのは目に見えている。これはりさ子からの電話に違いあるまい。それは直感でわかった。ここは我慢だ。もうメールも電話もいっさいしないし、かけない。メールがきても返信しないし電話にも出ない。そう強く決心していた。しかし、心のどこかに電話を待っている部分もあり、呼び出しの寂しげな音色がその決意をゆらがせる。

「ねえ、早く受話器をとってよ。いるんでしょう。どうして出てくれないの」

電話回線の向こうで、椅子に座りながら受話器を握り締め、今か今かと待っていてくれるりさこ子の姿が想像できる・・・罪悪感で胸が締め付けられるのを賢明にこらえた。これまでは辛抱できずに応答していた。もう何度同じ事を繰り返してきたことか・・・。

どうせ実らぬ恋だもの。逢わない方がいい。逢ったらよけいに別れが辛くなる。しかし、一度だけ。一度だけ。ほんもののりさにあってみたい。否、そんなことをしたら絶対ダメだ。俊樹の方から別れを宣言してから1週間が経過したのだ。これだけ我慢できたのだから。もう彼女からのメールも電話も無しで暮らせるだろう。しばらくは苦しいだろうが、時間の流れが破局の痛手を忘れさせてくれるはずだ。

トゥルルル♪トゥルル ♪ト ・・・

やがて泣き疲れた子供のように電話は鳴り止んだ。ほかに誰もいない部屋の中に静寂さが戻った。
俊樹は業務用のメールに目を通し、直ぐに返事が必用なものから返信していく。友人らのメールにもレスした。自分のホームページを開いて掲示板の投稿文を読んだ。

「最近りさ子さんの書き込みがないけど元気でしょうか」

といった常連さんからのメッセージが寄せられている。胸が痛んだ。

「そうですね。彼女、いったいどうしたのでしょうね。きっと忙しいのかもしれませんね」

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戸惑い

・・・やっぱ、さっきの電話に出ればよかった。りさ子と切れるのはたまらない。毎日来ていたメールが来ないのは寂しすぎる。ここ1週間、来るはずのないメールを毎日探している自分がいる。今度電話が鳴ったら必ず出よう。それともこっちからかけてみようか。しかし、これでいいんだ。どんなに好き合っていてもおたがいに家庭があるのだからどうにもならない…。

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まこっちゃん

まこっちゃん

元自動車会社工員、配管工、自動車洗車場、呉服担ぎ屋、土木作業員

昭和61年、琉球大学キャンパス内で架橋工事中に突然脳内出血に倒れる。
以降左半身不随の後遺症が残り1種2級の身体障碍者となる。

昭和64年(平成元年)リハビリセンターで入所中に知り合って交際していた女性職員と入籍。
福岡県粕屋郡古賀町(現古賀市)へ転居。彼女が働き、家事全般は夫がする暮らしを始める。生活費は折半。いわゆる「主夫」となって今に至る。

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