昼顔

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42歳で中堅メーカーに勤める佐藤勝はある日、出会い系の掲示板に出ていた登録情報に何通かのメールを送った。そして、次の日、3通の返信があった。その中の一人が裕子だった。ごくありきたりの返事で、
『こんな私でよかったらまたお返事くださいね』
というたあいのないものだった。勝は
『メールでお話しませんか』
といった風にメールを書いて送信ボタンを押した。それから四日後に、
『ダイレクトメールは、もう少し、お話してからではいけませんか。それでよければまたメールください』
との返信があった。それから、しばらくは裕子だけと何通も世間話、お互いの自己紹介、などのメールをやり取りした。その時は、男と女の関係に発展することをどちらも想像もしていなかった。

少し近づけた

交際を始めて3ヶ月。裕子のこともいろいろわかり、(32歳・旦那と保育園児1人)勝はどうしても、画像や音声のついたメールを送りたくなった。ところが、出会い系サイトの掲示板を通してのメールのやり取りは、文字の伝達しかできないのである。思い切って画像付きメールを送りたい。できたら、直メールをもらえないかと勝は、自分のメールアドレスを書いて送ってみた。すると返事は、
『ほっとするようなメールを』
の言葉にひかれて送っちゃいましたって、直メールが届き、思わずドキドキした。ほっとさせるにはどんなメールを書こうかとあれこれと悩んだ。動く背景。貼り付けるMIDIの選曲。いろいろ考えて送ったメールを裕子に送信した。どんなに感じてくれただろうか・・・。

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初めての声

翌日裕子からメールが届いた。
『あんなメールはじめていただきました。感動しちゃいました。ホントほっとするようなメールでした』

勝と裕子の直メールの始まりである。しかしまだ、ただのメル友でしかない。それでも少し裕子に近づけたような気がした。勝は勇気を出してさらに踏み込んだメッセージを送信した。
『電話かけていい?』
『いいよ』
の返信がきて嬉しかった。早速携帯にかけてみた。
『もしもし勝ですけど裕子さんですか』
『はいそうですが。あ、いつも楽しいメール有難うございます。ええ、今電話、全然大丈夫ですよ』

初めて聞く裕子の声。
予想していたより、なんとなくのんびりしたしゃべり方。何を話したのだろう。どうしても思い出せない。きっと、気持ちが舞い上がっていたんだと思う・・・。それからは、携帯メールのやり取りが主になる。パソコンのメールに比べて、携帯のメールはリアルタイムでどこにいても届く。あらためて、携帯の便利さを知らされた。

プレゼント

やがて、おはようメール。おやすみメール。時には、夜中の三時まで、布団にもぐってメールに没頭することもあった。しかし、まだ好きとかいう感情には至っていないが、お互いにかなり親近感を持って、接することができるようになった。 初めてメールのやり取りをしてから、五ヶ月目、裕子の誕生日が来た。住所なんてわからない。でも、プレゼントを渡したいと勝は思った。たまたま、用事で裕子の住んでいる街へ出かける機会がありこのことを伝えておいた。
裕子は、
『会おうっ』
て、メールが来るんじゃないかと思ってドキドキしていたが、携帯に着信はなかった。勝はたまたま駅で見かけたキリンのぬいぐるみを帰り際に買って、その売店に預けておいた。後で、メールでこのことを知らせ、無事に裕子の手元にプレゼントが届いた。裕子も子供もキリンが大好きだった。ちょっとした思いつきがタイムリーなプレゼントになった。

女が出会い系サイトを利用しているといろんな人がいるもので、
『メールは簡潔に短くまとめてください!』
という人。
『いつ会えますか?』
という人。しつこく電話をしてくる人。いろんな人がいる。勝はどれにも当てはまらなかった。裕子も会うことが目的ではなく、楽しくいろんな話ができればよかったので、勝とは楽しいメールのやり取りが続いていた。そんな時、裕子は年下の男に恋をしていた。

過去のこと

彼は裕子の故郷に住んでいて、裕子がお正月で故郷に帰った時にも会っていた。いつもドライブだけで、裕子は少し物足りなさを感じていた。私のことをどう思っているのだろうか・・・。今までの印象として感じていたことは、体が目的ではないけど、話が合えば、気が合えば、結果的にそうなってしまうんだろうなと・・・。

彼との話は、お互いのメル友のことが主だった。もちろん年上の勝の話もしていた。彼も何人かのメル友の女性と体の関係があったなどと話していただけに、私もそういう関係になってしまうのかななんて気持ちもあった。でも、彼は私にはいつも帰り際のフレンチなキスだけ。どうして?ひょっとして私自身が彼に対してそういうことを期待する部分があったのかもしれない。

ある時、その彼とドライブしていて、今日はもしかして・・・と思った。でも彼の行動はある所で止まった。彼は、
「ごめん・・・」
と謝った。
私は「・・・」
その数日ヶ後、裕子は聞いた。
『どうして、あの時に止めて、謝ったの』
彼は言った。
『裕子とは体の関係は望まない。しないよ』
と。
『俺は誰でもいい訳じゃない。裕子がそれを求めるならもうこれ以上付き合えない』
『それならなぜ私と何度も会ってたの?』
『話をする分には楽しいから!』
彼にとって裕子は恋人ではなくて、ただの女性の話し相手でよかったのだ。女の気持ちが男に対して、傾いていったのが彼には重荷になったのかもしれない。
『もうこうなったら会えない』
彼はあっさりと、
『じゃあね バイバイ』
私って、彼にとってはこんなに軽い気持ちで付き合わされていた女だったの?私の思いこみすぎ?それでも裕子は男への気持ちを断ち切れなかった。彼に別れを告げられてから後悔した。

初対面

私は、こんな事望むんじゃなかった。こんな事聞くんじゃなかった・・・。メル友の関係、ただそれだけの関係。彼とはそれ以上どうすることもできない関係だったんだ。でも、彼に泣いてすがり付こうとも思わなくて。しばらくは久しぶりの失恋にへこんでいた。その傷が癒えないまま、ブルーモードが続いているとき、勝から、
『良かったら一度会いませんか?』
というメールが届いた。
2003年2月20日木曜日、2人は始めて会った。その日、勝は仕事を早く終わらせ、待ち合わせの場所へ車で急いだ。ドタキャンなんて無いことを願いつつ。目の前を通り過ぎる女がすべて気になった。あの人だろうかなんて思いながら。勝は15分ぐらい待っただろうか。1人の女性が車の前で立ち止まった。

『裕子さんですか』
彼女は頷く。しかしこまった表情。
勝は一瞬目を疑った。車の前を通り過ぎていったどの女性よりもかわいい。それが第一印象だった。この瞬間、勝は、裕子に一目ぼれしてしまった。彼女が車の助手席に乗り込む。それから、2人で食事に行った。一風変わったステーキ屋、ワインも注文した。
『乾杯!』
気持ちが舞い上がっていたせいか何を話したらいいのか良くわからないまま、お互いの家族のこと、仕事のこと、くだらないことを話した。ほろ酔い気分となって二人で散歩に出た。途中目にとまった観覧車に乗った。
並んで座りたい気持ちを抑えて、向かい合わせで座る。二人だけの密室。それだけでドキドキだった・・・。

まわりの景色は目に入らない。隣に並んで座りたい。勝はそればっかり考えていた。
あっという間に一回り。まだまだ、何周も乗りたかった。そして、しばらく二人で歩いた。

初めてのくちづけ

二回目のデート。
もう少しで日付が変わろうとしている頃、最初に待ち合わせをした駐車場に着いた。勝の気持ちの中は、もっと裕子と一緒にいたい。裕子は今、僕に対してどういう気持ちを抱いているのだろうか。この二つの気持ちが交錯した。
裕子に、
『もう少しだけ、話してもいいかな』
って、聞いてみる。
『うん』
と頷く。
勝はどうでもいいようなこと。意味不明のことをダラダラと語った。
そして、車の中で裕子にさりげなく寄り添い、肩を抱いて、
『しばらく抱きしめてていいかな』
返事も聞かずに抱きしめた。裕子は、動かずにじっとしている。あとで考えると、
『うん』
といったように気がする。
この状態で我慢できるのだろうか。抱きしめた状態で理性と本能の戦い。向こうの心臓からもドキドキ感が伝わってくる。ついに理性の壁が崩れる。顔をずらし、そして裕子とのはじめてのくちづけ。お互いに肩に手を回し、抱き合い、時間が過ぎていった・・・。

裕子が、二人目の子供を妊娠した。ご主人も、彼女も望んでいたことだ。これから、出産へ向けてのいろんなこと。そして、出産後のこと。いろんなことを考えると、僕たちは付き合っていけるのだろうか・・・。

三回目のデート

2人で歩きながら、勝は何回手をつなごうと思っただろうか。さりげなく、手が触れ合う距離に近づいて歩こうとするが、なんとなく遠ざけられているような気さえする。そして、夜の10時過ぎ、誰もいない海岸の段差があるところに2人で並んで座った。波音を聞きながら、真っ暗な浜辺で話を始めた。風がなかったせいか、2月の海だけど、それほど寒くはなかった。

いや、寒さを感じる余裕がなかった。1時間ぐらい座っていた・・・。その間、いろんなことを試みる。
勝のイメージとしては、2人砂浜で寄り添い、顔を近づけ自然に口づけを、というのが理想だったけど、これはあくまでもお互いの気持ちが、一つになってのこと。そううまくはいかない。多少はお互いに意識はしていただろうが・・・。

ちょっと、座る位置を裕子に近づける。
『寒くないかい』
なんて、聞いてみたりする。
『寒いね』
と返事が返ってくれば、
『くっつけば暖かいよ』
なんて言葉もかけられるが、
『大丈夫だよ』
こんな風に言われれば先には進まない。裕子はその時どんなこと考えてたんだろう?
でも、裕子のしぐさや会話から勝に対していやな思いをしていないことは感じていた。11時半を過ぎ、遅くなっちゃったね。って、裕子の肩に思い切って手を回してみた。嫌がる様子もなく、
『そうだね』
って言われたような気がする。
言葉では、
『帰ろうか』、
気持ちの中では
『まだ、帰りたくないよ~』
気持ちと行動が完全にずれている瞬間、裕子は、そういう素振りも見せずに帰りましょうって感じだった。
普段は結構、アクセルを踏んで運転する勝の車。この時ばかりは、超安全運転。普段は信号が赤に変わりそうになるとついてないやなんて思う。この日は、すべての信号が赤になってくれの心境だった。点滅の信号もあるがどれも青ばかり。やがて、車は待ち合わせの場所へついた。

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まこっちゃん

まこっちゃん

元自動車会社工員、配管工、自動車洗車場、呉服担ぎ屋、土木作業員

昭和61年、琉球大学キャンパス内で架橋工事中に突然脳内出血に倒れる。
以降左半身不随の後遺症が残り1種2級の身体障碍者となる。

昭和64年(平成元年)リハビリセンターで入所中に知り合って交際していた女性職員と入籍。
福岡県粕屋郡古賀町(現古賀市)へ転居。彼女が働き、家事全般は夫がする暮らしを始める。生活費は折半。いわゆる「主夫」となって今に至る。

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